昨年の5月、ダービーが行われるこの時期に、HBAのトレーニングセールで1頭の競走馬が落札されました。セクシーポイント16、のちにメジロヴィルゴと名付けられた芦毛の牝馬は、メジロ牧場としては初めて生産も育成もかかわらないメジロとしてデビューすることになりました。しかし、即戦力として期待されたヴィルゴでしたが、デビュー戦で14着と惨敗、2戦目で2着と巻き返したものの、それ以降長期の休養に入ることとなります。

　そして今年の3月、誰もがヴィルゴという存在を忘れてしまった頃、中京の未勝利戦で復帰戦を迎えました。ひとまわり大きくなったヴィルゴは7着に敗れたものの、続く福島の未勝利戦では大きな変り身をみせ2着となり、今後に目途を立てました。しかし、このレースでヴィルゴは叩き合いを制して先頭に立ったのに、油断したところを内からすくわれ、ハナ差の2着に敗れてしまったのです。これが苦しい戦いの始まりだったかもしれません。

　新潟、中京、福島そして再び新潟と連戦を続けていきましたが、あと少し届かない悔しい競馬がつづきました。鞍上もローカル巧者の中舘騎手を迎えて強化したものの、ホントあと少しだけ届ない2着、3着の繰り返しが続きました。このまま勝てないで終わってしまうのでないかとそんな不安もよぎりました。そして3歳未勝利戦の最終となる4回中山開催で、陣営はより条件のいいダートのレースに出走することを決断します。走りっぷりや血統からもダートについては全く不安がなく、むしろ勝ちきれない決め手の甘さを解消できるのではという期待もありました。こうして9月15日、牝馬限定のダート1200M戦に出走してきたヴィルゴは期待通りの走りで、先頭に並びかけていったものの、最後はクビ差届かず2着に敗れてしまいました。未勝利戦も残り2週となり、誰もが諦めていたとき、ヴィルゴは翌週の未勝利戦に連闘で出走してきたのです。

　ヴィルゴは純粋なメジロの馬ではないため、あまり応援していなかったという人がいたはずです。そもそもトレーニングセールで購入された馬がメジロで走ることになったのは、萱野厩舎ゆかりシルビアをはじめとする繁殖が相次いで亡くなってしまったため、萱野先生と一緒に馬を選んで購入されたと伺っています。もしかしたらヴィルゴは今後の萱野厩舎に入るメジロたち、いやメジロ牧場の新しい基礎牝馬としての可能性を秘めているかもしれません。800万で落札されたヴィルゴは十分それ以上の活躍をしてくれているので、引退して繁殖に上がればいいというところもあったと思います。でも、ここで勝ちにこだわらなければ、意味がない。そんな気持ちがしたのです。連闘で挑むことを決めた陣営も、もしかしたらそう思っていたのかもしれません。

　連闘で未勝利戦に挑んだヴィルゴは初めて1番人気に支持されました。420台の小柄の馬体のため、これまで間隔を開けて使われてきただけに、この連闘を不安視するところもありました。しかし、それをも覆い隠してしまう1.4倍の圧倒的支持を受け、レースに挑むことになったのです。ヴィルゴは４コーナーで先頭に並びかけると直線抜け出す勢いでしたが、３頭が並んだまま互いに譲らず接戦に。またかと思った瞬間、残り１００で徐々にヴィルゴが抜け出すと、最後は１馬身以上の差をつけてゴール。みごと念願の初勝利を飾りました。鞍上の中舘騎手はヴィルゴをねぎらい、使い詰めの疲れをとれば、もっと良くなるはずと、さらなる期待をよせてくれました。

　現在、ヴィルゴは休養に入り、メジロ牧場で連戦の疲れを癒しています。ヴィルゴがあげたのはこの1勝だけですが、勝てなかった3歳世代の中でその意味は大きく、また今後の活躍への期待もこめて、メジロ通信が推薦する１頭とさせていただきます。

　今年の成績は9戦1勝で、通算11戦1勝（12月9日時点）。主戦であった岩部騎手はミスなどもあって、なかなか結果を出せず、乗り替りとなってしまいましたが、この経験が2歳のアリスに生かされているんじゃないかって思っています。父はトレンドのミスプロのエンドスウィープ系で、母はトニービンの肌で小岩井農場のヘレンサーフ系の出身です。血統的にもこれからが楽しみです。

メジロヴィルゴ

2004年3月29日生
牝　芦毛
父　スウェプトオーヴァーボードUSA
母　セクシーポイント（トニービンIRE）
兄弟　キングオザー

馬主　（有）メジロ牧場
調教師　萱野浩二（美浦）
生産者　日高太平牧場（門別）
通算成績　11戦1勝 （12月9日現在）
総収得賞金　1690万円 （12月9日現在）